光熱費の高騰や住宅設備の老朽化をきっかけに、家庭の熱源を見直す方が増えています。特に、ガスコンロをIHクッキングヒーターに、ガス給湯器をエコキュートに交換し、家庭内のエネルギーをすべて電気でまかなう「オール電化」への切り替えは、リフォームの大きな選択肢の一つです。
しかし、これらは単体でも大きな買い物であり、同時に交換するとなれば、その費用や工事規模は決して小さくありません。また、長年ガスを使ってきた家庭にとって、すべてを電気に変えることへの不安も少なからずあるはずです。
この記事では、ガスコンロと給湯器を同時にIHとエコキュートへ交換することの具体的なメリットとデメリット、工事の実態、そして費用対効果について、誇張なく淡々と事実に基づき解説します。
1. なぜ「同時交換」が推奨されるのか

機器が故障したタイミングで個別に交換するのではなく、同時に工事を行うことには、施工上の明確な合理性が存在します。主な理由は「電気工事の効率化」と「契約の単純化」です。
電気工事の一本化によるコスト圧縮
IHクッキングヒーターとエコキュートは、どちらも一般的な家電製品とは異なり、200V(ボルト)という高い電圧を必要とします。そのため、導入には分電盤(ブレーカー)から専用の電線を引く電気工事が不可欠です。
これらを別々の時期に導入した場合、電気工事業者がその都度訪問し、配線ルートの調査、壁への穴あけ、配線工事を行うことになります。そのたびに人件費や出張費、養生費が発生します。一方、同時に工事を行えば、分電盤からの配線ルートを一度に設計でき、壁や床下の配線作業も一度で済みます。これにより、施工費用の重複部分を削減できるのが最大の強みです。
分電盤と契約アンペアの見直し
IHとエコキュートを導入すると、家庭全体の電力使用量が大きく変化します。既存の分電盤の空き回路が足りない場合、分電盤自体の交換や、電力会社との契約アンペア数の変更が必要になることがあります。これらを一度に済ませることで、契約変更の手続きの手間や、何度も停電を伴う工事を行うストレスを回避できます。
2. IHとエコキュートにする経済的メリット

ガスから電気へ切り替える最大の動機として挙げられるのが「ランニングコスト(光熱費)の削減」です。この削減効果は、主に2つの要素によって構成されています。
ガスの基本料金がゼロになる
ガスと電気を併用している家庭では、当然ながら両方の「基本料金」を支払っています。使用量に関わらず毎月発生するこの固定費は、年間で見ると決して無視できない金額になります。
IHとエコキュートを導入してガス契約を解約すれば、ガスの基本料金は完全にゼロになります。電気の基本料金が上がる可能性はありますが、二重に支払っていた基本料金を一本化できることは、オール電化ならではの確実な削減要素です。
深夜電力の活用による給湯コストの圧縮
エコキュートは、電気料金が割安に設定されている「深夜帯」にお湯を沸かしてタンクに貯めておく仕組みです。 多くの電力会社では、オール電化向けの料金プランを用意しており、日中の電気代がやや割高になる代わりに、夜間の電気代を大幅に安く設定しています。給湯は家庭のエネルギー消費の中で大きな割合を占めるため、この部分を安価な夜間電力でまかなうことで、全体の光熱費を押し下げる効果が期待できます。
また、エコキュートは「ヒートポンプ技術」を採用しています。これは空気中の熱を集めてお湯を作る仕組みで、投入した電気エネルギーの3倍以上の熱エネルギーを生み出すことができます。従来の電気温水器(電熱線で温めるタイプ)と比較しても、消費電力は約3分の1程度で済むため、非常に効率的です。
3. 生活環境におけるメリット(機能・安全性)

経済面以外にも、生活の質(QOL)に関わるメリットがあります。
火を使わない安全性
IHクッキングヒーターは火が出ないため、着衣への引火や、消し忘れによる火災のリスクが極めて低くなります。また、ガス燃焼に伴う二酸化炭素や水蒸気の発生がないため、室内の空気が汚れにくく、結露の発生も抑制できます。 エコキュートも同様に、敷地内で火を燃焼させないため、排気ガスや不完全燃焼による一酸化炭素中毒の心配がありません。特に高齢者世帯や小さなお子様がいる家庭において、この安全性は大きな安心材料となります。
災害時の用水確保(エコキュート)
エコキュートには貯湯タンクがあり、常に数百リットルのお湯や水が貯められています。万が一、地震などで断水が発生した場合でも、タンク内の非常用水栓(コック)を開けば、生活用水として取り出すことが可能です。飲料水としては推奨されない場合が多いですが、トイレを流す水や手洗い用の水として利用できる点は、災害対策として有効です。
清掃性の向上(IH)
IHのトッププレートは平らなガラス製であるため、吹きこぼれや油汚れも布巾で拭き取るだけで清掃が完了します。ガスコンロのように五徳(ごとく)を取り外して洗う手間がありません。また、燃焼による上昇気流が発生しにくいため、油煙が広がりにくく、換気扇や壁のベタつきが軽減されるという副次的なメリットもあります。
4. 導入前に知っておくべきデメリットとリスク

メリットだけでなく、デメリットやリスクについても正しく理解しておく必要があります。
導入時の初期費用が高額
最大のハードルは初期費用(イニシャルコスト)です。 ガスコンロとガス給湯器の交換と比較した場合、IHとエコキュートの機器本体価格は高額になる傾向があります。さらに、前述した200V配線工事や、エコキュートの貯湯タンクを設置するための基礎工事(コンクリート打設など)が必要になるため、工事費も高くなります。 「月々の光熱費が下がる」といっても、初期投資の回収には数年から十年程度の期間を要することを計算に入れておく必要があります。
設置スペースの問題
エコキュートは「ヒートポンプユニット(エアコンの室外機のようなもの)」と「貯湯タンクユニット」の2つで構成されています。特に貯湯タンクは高さと奥行きがあるため、設置には十分なスペースが必要です。 都市部の狭小地や、隣家との距離が近い場合、設置場所が確保できない、あるいは搬入経路が確保できないために設置を断念せざるを得ないケースがあります。また、運転音が隣家の寝室に近い場合、騒音トラブルになるリスクもあるため、設置場所の選定は慎重に行う必要があります。
お湯切れ(湯切れ)のリスク
ガス給湯器は「瞬間式」であり、水道水を瞬時に温めて給湯するため、ガスと水が供給されている限りお湯を使い続けることができます。 一方、エコキュートは「貯湯式」です。夜間に作ったお湯をタンクに貯めて使い回すため、タンク内のお湯を使い切ってしまうと「湯切れ」を起こします。湯切れした場合は沸き増しを行いますが、お湯が出るまでに時間がかかったり、昼間の高い電気代でお湯を作ることになり経済メリットが薄れたりします。家族構成や使用量に見合った適切なタンク容量を選定することが重要です。
停電時の脆弱性
オール電化住宅は、停電するとすべての機能が停止します。 ガスコンロであれば、乾電池式やマッチ点火で停電時も使える場合がありますが、IHは使用できません。エコキュートも電気制御されているため、タンクにお湯が残っていても蛇口からお湯を出すことはできません(タンクから直接水を取り出すことは可能です)。 オール電化にする場合は、カセットコンロを常備するなど、停電時への備えを別途検討する必要があります。
調理器具の制限(IH)
ガスコンロで使用していた鍋やフライパンが、IHでは使えない場合があります。 IHは磁力線を利用して加熱するため、鉄やステンレスなど磁石がつく素材の鍋が必要です。土鍋、アルミ鍋、耐熱ガラス製の鍋などは、基本的には使用できません(オールメタル対応IHなど一部の高機能機種を除く)。手持ちの調理器具を買い替える費用も考慮する必要があります。
5. 導入までの具体的な流れと業者選び

実際に同時交換を行う場合の流れと、業者選びのポイントについて解説します。
1. 現地調査と見積もり
まずは専門業者による現地調査が必要です。以下の点がチェックされます。
- 現在の電気契約種別と分電盤の状況
- エコキュートの設置場所(広さ、搬入経路、地盤の強さ)
- IH用配線のルート(天井裏、床下など)
- 既存設備の撤去・廃棄方法
見積もりは「機器代金」と「工事費」に分かれます。工事費には、基礎工事、配管工事、電気工事、廃材処分費などが含まれます。一式表記ではなく、内訳が明確な見積もりを出してくれる業者を選びましょう。
2. 機種の選定
- エコキュート: 世帯人数に合わせてタンク容量を選びます(3〜5人家族なら370L、4〜6人以上なら460Lが一般的)。また、住んでいる地域が寒冷地や塩害地域(海沿い)の場合は、専用の仕様を選定する必要があります。
- IHクッキングヒーター: グリルの機能、トッププレートの幅(60cmまたは75cm)、オールメタル対応の有無などを基準に選びます。
3. 工事の実施
ガス会社への閉栓連絡を行い、工事を開始します。 通常、IHとエコキュートの同時工事は1日〜2日で完了します。ただし、エコキュートの基礎コンクリートを新たに打設する場合は、乾燥期間が必要なため、事前の工事が必要になることがあります。 工事当日は、一時的な停電や断水が発生するため、生活への影響を事前に確認しておきましょう。お風呂に関しては、工事当日の夜から使える場合が多いですが、試運転の状況によっては翌日からとなることもあります。
6. まとめ:同時交換が向いている人・向いていない人
ガスコンロからIHへ、給湯器をエコキュートへ同時に交換することは、初期費用こそかかりますが、長期的な光熱費削減と、安全性・利便性の向上という大きなリターンが見込めるリフォームです。
最後に、どのような家庭がこの同時交換に向いているかを整理します。
向いている家庭
- プロパンガス(LPG)地域に住んでいる: プロパンガスは都市ガスに比べて単価が高いため、オール電化による光熱費削減効果が非常に大きくなります。
- これから子育てをする、または高齢者が住む家庭: 火を使わない安全性が大きなメリットとなります。
- 築年数が15年前後で、設備交換の時期が迫っている: 故障する前に計画的に交換することで、工事費を抑えられます。
慎重な検討が必要な家庭
- 都市ガス地域で、ガス代がそれほど高くない家庭: 光熱費の削減幅が小さく、初期費用の回収に長い時間がかかる可能性があります。
- 料理に強いこだわりがある家庭: 中華料理など鍋を振る料理や、直火ならではの調理を重視する場合は、IHの加熱特性が合わないことがあります。
- 設置スペースが極端に狭い家庭: 無理に設置すると、メンテナンス性が悪化したり、騒音トラブルの原因になったりします。
エコキュートとIHの同時導入は、これからのライフスタイルを左右する重要な選択です。目先の価格だけで判断せず、10年、15年先の生活を見据えて、信頼できる業者と相談しながら導入を検討してください。

