「何か専門的なスキルを身につけたい」「将来にわたって安定した仕事がしたい」と考えているものの、特別な経験や資格がなく、キャリアの第一歩をどう踏み出せばよいか悩んでいる方は少なくないはずです。
もしあなたがそのような状況にいるなら、「第二種電気工事士」という国家資格の取得を検討してみてはどうでしょうか。
この資格は、私たちの生活に不可欠な電気インフラを支える専門職への入口であり、未経験からでも挑戦することが可能です。
この記事では、第二種電気工事士という資格が具体的にどのような仕事につながるのか、取得の難易度、収入の変化、そして合格に向けた学習方法まで詳しく解説していきます。
第1章:「第二種電気工事士」の仕事内容と社会的な役割
第二種電気工事士は、一般の住宅や小規模な店舗など、「一般用電気工作物」と呼ばれる範囲の電気工事を行うために必須の国家資格です。
電気工事士法により、この資格がなければコンセントの設置や配線工事といった基本的な電気工事を行うことはできません。
1-1. 具体的な業務内容
第二種電気工事士が担当する業務は、私たちの日常生活に密接に関わっています。
住宅の配線工事
新築住宅の建設時に、壁や天井裏に電線を通し、各部屋に電気を供給するための配線を行います。また、リフォームの際には、間取りの変更に合わせて配線をやり直したり、古くなった分電盤を新しいものに交換したりする作業も担当します。
エアコンの設置・交換
家庭用エアコンの取り付けや交換には、専用コンセントの設置や室内機と室外機をつなぐ電気配線作業が伴います。これらの作業は、第二種電気工事士の資格がなければ行うことができません。
コンセントやスイッチの増設・修理
「この壁にコンセントが欲しい」「照明のスイッチを増やしたい」といったお客様の要望に応えるのも重要な仕事です。
電気の容量を計算し、安全なルートで配線を延長するなど、専門的な知識が求められます。
EV充電設備の設置
近年、電気自動車(EV)の普及に伴い、自宅に充電用コンセントを設置したいという需要が急速に高まっています。このEV充電設備の設置工事も、第二種電気工事士の活躍が期待される新しい分野です。
これらの業務は、人々の暮らしをより快適で便利なものにする、社会貢献度の高い仕事です。自分の手掛けた配線によって部屋に明かりが灯ったり、お客様から直接「ありがとう」と感謝されたりする瞬間に、大きな達成感とやりがいを感じることができるはずです。
第2章:データで見る「第二種電気工事士」試験

「国家資格」と聞くと、非常に難しい試験を想像するかもしれません。しかし、第二種電気工事士試験は、未経験者であっても計画的に学習を進めることで、十分に合格が可能なレベルに設定されています。
2-2. 試験の概要と合格率
試験は年に2回(上期・下期)実施され、知識を問う「学科試験」と、実技能力を問う「技能試験」の2段階で構成されています。学科試験に合格した人のみが、技能試験に進むことができます。
近年の合格率のデータを見ると、その難易度が分かります。
学科試験(筆記またはCBT方式):合格率 約60%
技能試験(実技):合格率 約70%
学科試験では受験者の半数以上が、技能試験では10人中7人程度が合格している計算になります。
もちろん、誰でも簡単に合格できるわけではありませんが、他の多くの国家資格と比較しても合格率は比較的高く、真面目に取り組めば結果につながりやすい試験です。
2-3. 試験内容の詳細
【学科試験】
学科試験は、マークシート形式(またはCBT方式というコンピュータを使った形式)で行われます。出題範囲は広く、電気に関する基礎的な理論から、工具の名前、配線図の記号、関連する法律まで多岐にわたりますが、その多くは暗記によって対応が可能です。計算問題も出題されますが、全体の配点はそれほど高くなく、基本的な公式をいくつか覚えておけば対応できるレベルです。
【技能試験】
技能試験の最大の特徴は、事前に13種類の候補問題が公表され、試験当日はその中から1問がそのまま出題されるという点です。
つまり、事前に公表された13パターンの作業をすべて練習しておけば、本番で全く知らない問題が出題されることはありません。
試験では配布された単線図(簡易的な設計図)を、実際の配線方法を示す複線図に自分で描き起こし、それに基づいて支給された材料と工具を使って40分以内に作品を完成させます。
練習量が合否に直結する、非常に公平な試験です。。
第3章:資格取得が収入に与える影響
資格取得を目指す上で、収入がどのように変化するのかは最も関心の高い点の一つでしょう。第二種電気工事士の資格は、あなたの努力とスキルを、具体的な収入という形で評価してくれます。
3-1. 年収データの分析
一般的に、資格を持たない未経験の見習いとして電気工事の仕事を始めた場合の年収は、300万円前後が目安となります。
第二種電気工事士の資格を取得すると、年収は350万円〜450万円程度に上昇するケースが多く見られます。
資格を取得し、一人前の技術者として認められることで、年収が数十万円から、場合によっては100万円以上増加する可能性があります。
この収入の差は、主に以下の要因によって生まれます。
担当できる業務の拡大
資格がなければできない「業務独占」の仕事を担当できるようになり、技術者としての専門性が高く評価されます。
資格手当の支給
多くの企業では、資格保有者に対して毎月数千円から1万円程度の「資格手当」を支給する制度を設けています。
昇進・昇格への影響
資格の有無が、現場のリーダーなどへの昇進の条件となっている場合があります。
転職市場での評価
国家資格は、あなたの技術力を証明するものです。
転職を考える際にも、資格保有者は有利な条件で採用される可能性が高まります。
3-2. 経験とキャリアによる年収の変化
もちろん、年収450万円はゴールではないです。電気工事士としてのキャリアは、資格取得からが本当のスタートです。

経験年数による上昇
経験を積むことで、より複雑な工事を担当できるようになり、それに応じて収入も着実に上がっていきます。経験5年〜10年の中堅クラスになると、年収500万円以上を目指すことも現実的です。
上位資格への挑戦
第二種電気工事士として実務経験を積むと、より大規模な工事を担当できる「第一種電気工事士」(平均年収約550万円)や、現場全体を管理する「電気工事施工管理技士」(年収500万円〜700万円以上)といった、さらに上位の資格への道が開けます。
第4章:合格に向けた具体的な学習プラン
「自分も挑戦してみよう」と決意した方のために、ここからは合格を掴むための具体的な学習方法について解説します。働きながらでも、効率的に学習を進めることは十分に可能です。
4-1. 学科試験の学習法
学科試験の合格ラインは100点満点中60点です。満点を目指す必要はなく、確実に合格点を取るための戦略的な学習が重要です。
過去問題集を徹底的に活用する
学科試験は過去に出題された問題と類似した問題が繰り返し出題される傾向があります。
そのため、最も効果的な学習方法は、過去問題集を繰り返し解くことです。
最低でも過去5年分の問題を3周以上解くことを目標にしましょう。
「問題を解く→間違えた箇所の解説を読む→参考書で関連知識を確認する」というサイクルを繰り返すことで、出題傾向を身体で覚え、効率的に知識を定着させることができます。
参考書は図や写真が多いものを選ぶ
特に初学者の方は、専門用語や器具のイメージを掴むのが難しい場合があります。文章ばかりの参考書よりも、図や写真が豊富で、フルカラーで解説されているものを選ぶと、視覚的に理解しやすくなります。
4-2. 技能試験の練習法
技能試験は、練習量がそのまま結果に反映されます。40分という制限時間内に、正確に作業を完了させるための反復練習が不可欠です。
「複線図」の習得が最優先
技能試験の合否は、単線図から複線図を正確に、かつ迅速に描けるかどうかで決まると言っても過言ではありません。複線図の描き方には基本的なルールがあります。
電源の白線(接地側)は、コンセントと照明器具などの負荷に接続する。
電源の黒線(非接地側)は、コンセントとスイッチに接続する。
スイッチと、それが操作する照明器具などの負荷を接続する。
この3つのルールを基本に、13問すべての候補問題の複線図を描く練習を繰り返しましょう。試験本番では、5分以内を目安に描き終えるのが理想です。
候補問題をすべて練習する
事前に公表されている13問の候補問題を、実際に工具と材料を使ってすべて製作してみることが重要です。練習用の工具セットや、数回分の練習ができる材料セットが市販されています。YouTubeなどで公開されている手本動画を参考にしながら、一つ一つの作業を丁寧に行いましょう。時間を計りながら練習を繰り返し、最終的にはすべての問題を35分程度で完成させ、残りの5分で見直しができる状態を目指しましょう。
第5章:あなたの成長を後押しする職場環境の選び方
第二種電気工事士という価値ある資格を、自身のキャリアで最大限に活かすためには、どのような環境で働くかという点が非常に重要になります。特に未経験からこの業界に挑戦する場合、個人の成長を組織としてどれだけサポートしてくれるかが、その後のキャリアを大きく左右します。
もしあなたがこれから働く会社を探すのであれば、ぜひ以下のような点に着目してみてください。
資格取得支援制度の充実度
受験料や教材費の補助、合格した際の報奨金(資格手当)など、社員のスキルアップへの投資を惜しまない制度が整っているか。これは、会社が社員の成長をどれだけ真剣に考えているかを示す指標になります。
未経験者に対する教育体制
入社後、経験豊富な先輩が指導役として付き、工具の使い方や現場でのルールといった基礎から丁寧に教えてくれる体制があるか。「見て覚えろ」という姿勢ではなく、組織として新人を育てる文化が根付いていることが重要です。
多様な業務経験の機会
一般住宅の電気工事だけでなく、エアコン工事、給排水設備工事、住宅リフォームなど、幅広い業務に携われる機会があるか。多様な現場を経験することは、技術者としての対応力を高め、将来的に複数のスキルを持つ「多能工」として市場価値を高める上で大きな利点となります。
「手に職をつけたい」というあなたの意欲は、これからのキャリアを築く上で最も大切な原動力です。その想いを正当に評価し、あなたの成長を会社全体でサポートしてくれる環境を選ぶことが重要です。

